元は別世界を生きた人物である。
大きな島国の一つで剣と魔法を使い、様々な種族が暮らす。
彼女は、その大陸に住まう女神の一人であり、大地を意のままに操る豊穣神だった。しかし、過度に能力を行使せず、土台だけの提供が殆どだった。人類史の発展に極力関与しない事を信条としていたからである。
なので、資源産出の成功は人類の技術や知恵によるものとし、自身はバックアップをしていた過ぎないとして、人類を尊重している。
共存の重要性を誰よりも理解しており、娯楽として時たまに市民を装っては、地上に降り立ってあらゆる場所で交流を図っていた。

しかし、ある日を境に政権に変化が生じれば、度重なる種族の偏見から始まり、やがて迫害に、最終的には抗争へと移り変わる。
資源と土地を巡る争いに、自然環境は徐々に衰退。事態を引き止めるべく彼女は再び、女神としての正装で地上へ降り解決を試みる。
だが、単身で赴いたのは誤算だった。王都の政権を変えた王族は、自身と同じ神族に取り憑かれていた。想像以上に深刻な事態から、邪神討伐による救助要請を求めるが、その姿を捉えられてしまう。満身創痍で王都を抜け、天界へ撤退しようとするが、力を使い果たし、帰還する余力は残されていなかった。最後に急所を穿たれ力尽きてしまう。

朽ち果てた身体は植物と化し、忽ち街一つを覆う大樹となり、生み落とされた一つの果実から後継者を生んだ。
諸悪を断ち切るべく人類へ、また神々へ警鐘を鳴らしたが、その思いがどうなったのか彼女は知る由もない。後継者となる娘の姿を大樹と化した姿で拝んだ後、意識は此処で途絶えてしまった。

輪廻転生か、それとも異次元に送り込まれたのか、それとも全てはただの夢物語だったのか…。

目を覚ませば、エクストラ養成機関の病棟だった。どうやらアウトサイドに襲われ、心臓部を何らかの能力で射抜かれていたらしい。生死の境を数日彷徨って、奇跡的に息を吹き返したとのこと。
見たこともない医療器具に、元の世界には無かった近代的な製品。確実な死を体感していたので、状況を飲み込めずに混乱していた。
しかし、住所、名前、家族構成、そして自身の能力をスタッフに聞かされた上に、明確にデータ化されており、結果外傷による記憶喪失だと処理されてしまった。

復帰した後は、この世界を知るべくエクストラ養成機関に留まって勉強と鍛錬を積む。
時に物騒な話や悲壮な話を耳にするが興味を示さない。だからと言って、エクストラの刷り込み教育や、自身の甘い思考回路を叱責されても、のらりくらりと跳ね除ける。余生を過ごすかの如く日々を送っていた。

しかし、長い月日が経て、馴染み始めたのか本来の性格を維持して人間らしく振舞うようになり、情勢をある程度把握した後、漸くエクストラの悪評や外部の様子に関心が向くようになる。
そんな彼女は、エクストラの密偵としてアウターエデンへ送り込まれ、ガルエデンに通学。
誰の肩入れをするわけでもない。公正で自由気ままな人間観察に身を投じるのであった。